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●迷盤奇盤珍盤 第1回 シャーリー・バッシー、大いにジェームス・ボンドを唄う Part.2

前回までのあらすじ:
それは某市のブックオフの投げ売り棚から発見されたいかにも安っぽい1枚のCDだった。「シャーリー・バッシー?007のテーマ曲を全部?...おもしろそうなCDじゃないか」彼はそのCDをレジへ持っていった。そこからこの物語は始まる...。


なんか変なあらすじから始まりましたが、いよいよ実際にCDを聴いてみての感想を書いてみたいと思います。
『シャーリー・バッシー 映画007テーマ曲集/Shirley Bassey Sings Bond』(輸入元:蝶理株式会社 発売元:キープ株式会社/Tring International KA-011)

  1. 美しき獲物たち/View To A KilI (オリジナル:デュラン・デュラン)
    それでは1曲目聴いてみましょう...てうわなんだこれ!ドラムはバリバリの打ち込み。そこにのっかるシンセ音のまた安っぽいこと。「チープ」というより「プアー」と言ったほうが的確な表現でしょう。
    それでもバックの音楽だけ聴いている分にはまだなんとかならないでもない(おそらく限度まで限られた資金と時間なりには奮闘している)のですが、そこへシャーリー・バッシーのヴォーカルが入ってくるともういけません。シャーリーはいつもどおり、情感を込めて歌い上げますが、それはバックの音とはまさに水と油。かえって安っぽさが全面に打ち出されてしまいます。
    それでも、サビの部分での熱唱はさすがにシャーリーで、一瞬、バックの音の存在を忘れさせてくれます。う〜ん、アカペラで聴いたほうが何百倍もマシだなあ...。
    ということで嫌な予感しかしませんが、2曲目へ行きます...。

  2. 私を愛したスパイ/Nobody Does It Better (オリジナル:カーリー・サイモン)
    ということで、これも酷いです。1曲目の「美しき獲物たち/View To A KilI」は、オリジナルのデュラン・デュランの曲がそもそもシンセ音が主体で(もちろん同じシンセでも雲泥の差がありますが)まだしもだったのですが、このカーリー・サイモンが優しく唄うオリジナルは、基本アコースティックでオケも入る演奏(2箇所ほど、当時流行りだったシンセ・ドラムが使われてますが)。シンセで同じ音にするのは根本的に無理があります。
    シャーリーは、この曲ではオリジナルのカーリー・サイモンにならって、あまり声を張らずに、穏やかに歌っているのですが、それこそ猫に小判、どうしても、安っぽいバックの演奏に耳が行ってしまう...。
    なんとか、バックの演奏だけ省いて、アカペラにできないものか...。

  3. ロシアより愛を込めて・007危機一髪/From Russia With Love (オリジナル:マット・モンロー)※1
    ということで3曲目。まずオリジナルの方から聴いてみたのですが、バックは基本オケ。なかなか豪奢なアレンジです。で、このCDの方ですが、もはや編曲家も演奏者も、オリジナルと同じ(よう)にすることは諦めてしまったのでしょうか。一歩引いた演奏に終始してますが、かえってその分ましなような...。
    シャーリーの歌は安定してますが、さすがにやる気が失せてきたのか、ラスト、オリジナルのマット・モンローが高らかに歌い上げている部分も、イマイチ力が入っていないような気がします...。

  4. 愛はすべてを越えて(女王陛下の007)/We Have The Time In The World (オリジナル:ルイ・アームストロング)※2
    さて、4曲目のこの歌。オリジナルでは格調あるオケの音をバックに、サッチモがあの独特の節回しで歌うわけですが、このCDでは、ここへ来て何をトチ狂ったのか、オリジナルとは全く編曲を変えて、しかもそれが謎のレゲエ風だって言う...。
    多分シャーリーも歌いにくかったんでしょうね。もともと、サッチモに対抗するのはかなりの力技がいったはず。どちらかと言えば平坦な、メリハリの効いていない歌になってしまってます。

  5. 007は二度死ぬ/You Only Live Twice (オリジナル:ナンシー・シナトラ)
    オリジナルは、007映画テーマ曲では個人的に好きな曲です。イントロのヴァイオリンの高音がたまりませんな。
    で、このCDですが、前の曲のレゲエ調アレンジにはさすがに反省したのか、まともになってます。まともと言っても、オケのヴァイオリンにはかなうはずないので、うまくごまかしてます。その辺が段々腕が上がってきてます。とはいえ、シャーリーのヴォーカルと水と油という構図はまったく変わりませんが。
    シャーリーの熱唱は、どちらかといえば平板な歌い方のナンシー・シナトラに比べると、いい感じです。個人的にもうまく歌えた感があったのでしょうか、この歌には後日談があります。それは補足3で。

  6. ダイアモンドは永遠に/Diamonds Are Forever (オリジナル:本人)
    初のオリジナルも歌ってた曲です。オリジナルに比べると、ややテンポ遅い感じです。ここへ来て、バックの面々も少しコツを掴んできたのでしょうか。チープさは変わりませんが、なるべくシャーリーのヴォーカルを邪魔しないようなアレンジになっています。

  7. 死ぬのは奴らだ/Live And Let Die (オリジナル:ポール・マッカートニー&ウィングス
    これもいい曲ですね。やや平坦な歌い出しから、サビの部分で爆発して、その後ぐっとテンポアップする、そのあたりがいかにもポール・マッカートニーだなあ、という気がします。
    このCDでは、とりあえずなんとか原曲に近づけようと、編曲家も演奏者も頑張っている感じはします。しますが、残念ながらあまり成功しているとは言えません。シャーリーの歌も、いつもどおりの情念こもった歌ですが、やや肩に力が入り過ぎ、という感じもします。ポールのいい力の抜け具合と比べると、ですが。

  8. ムーンレイカー/Moonraker (オリジナル:本人)
    2曲目のオリジナルも歌ってた曲です。オリジナルでは、バックの演奏はやや引いた感じでしたが、このCDでは一歩前に出てます。って、ヴォーカルより目立ってどうする、てツッコみたいところです。
    シャーリーの歌は、オリジナルとあまり変わりませんね。まあ、同じ人が歌っているから当たり前といえば当たり前ですが...。

  9. ユア・アイズ・オンリー/For Your Eyes Only (オリジナル:シーナ・イーストン)
    この曲も1曲目のデュラン・デュランと同じく、オリジナルがシンセ・ベースの曲なので相性は良い...と思ったのですが、そうでもないようで、なにかオリジナルの逆を無理に行こうとして道を外れている感じです。素直にオリジナル通りに演奏していれば、もう少しなんとかなったのではないか?と思えます。
    シャーリーのヴォーカルはさすが経験を積んでるだけのことあって、シーナ・イーストンとは比べ物になりませんね。シーナ・イーストンも、単体で聴くとけっして悪い歌手ではないと思うのですが、相手が悪すぎです。

  10. オール・タイム・ハイ(オクトパシー)/All Time High (オリジナル:リタ・クーリッジ)
    オリジナルは、いきなりサックスから始まる、というどう考えてもシンセで再現できるはずないというものでしたが、それについては編曲家も諦めたのか、オリジナルとはかなり異なる編曲をしていて、結構頑張ったほうではないか、と思えます。でも、チープなシンセ音がそれを台無しにしているわけで、もう少し金と時間をかけていれば...てこれはすべての曲に言えることですが...。
    ヴォーカルの方は、割と素直な歌い方をするリタ・クーリッジに比べると、シャーリーは情念たっぷりに歌い上げていて、これはこれで魅力的です。

  11. サンダーボール大作戦/Thunderball (オリジナル:トム・ジョーンズ)
    オリジナルは、かなり豪奢というかやかましいオケがバックで、下手な歌手ではバックに埋もれてしまいそうですが、そこはさすがにトム・ジョーンズ、バックのやかましさに負けない力の入った歌唱力を見せつけてくれます。
    対してこのCDでは、バックの面子はまたしてもどうせ敵う筈もないのに、オリジナルを再現しようとしていて、当然ながら失敗しています。
    シャーリーのヴォーカルは、トム・ジョーンズに負けない力入ったもの。この2人のデュエットしてるところ、見たかったなあ...と思って検索したら、別曲ですがありましたよYouTubeに。なんでもあるなあ>YouTube

    削除済みだったらごめんなさい。

  12. ゴールド・フィンガー/Goldfinger (オリジナル:本人)
    さて、いよいよラストの1曲です。私はシャーリー・バッシーと言われると、真っ先にこの「ゴールド・フィンガー」が浮かんでくるのですが、大トリに持ってきたところを見ると、本人も自分を代表する曲、と思ってたのでしょうかね...。
    オリジナルのバックは、かなり起伏に富んだ激しいもので、これをドラムとシンセだけで再現するのは到底無理...と思ってたら、案の定えらく大人しいものになってしまいました。シャーリーのヴォーカルがあるからなんとか最後まで保った、という感じですね。最後の最後がこんな終わり方では寂しすぎます...。


※1...オープニング・テーマ曲ではなくエンド・タイトル曲
※2...オープニング・テーマ曲ではなく挿入歌

■総括■
まあ、聴く前から大体予想はしてましたが、案の定、チープなバックの編曲と演奏がシャーリー・バッシーのヴォーカルの足を引っ張る、という結果になってしまいました。
そんな訳で、このCD聴いての感想はイマイチ、というよりネガティヴなものに(シャーリー・バッシーのヴォーカルは置いといて)ならざるを得ません。
ここは、きちんとお金と時間と手間をかけて作っていれば、名盤になったかもしれないのに、なりそこねた、ということから、名盤ならぬ迷盤、と認定したいと思います。

補足1
そういう訳で、このCDの音源の出来の悪さについては、おそらくシャーリー・バッシー側もそう思ったのでしょうか。いったんこの音源の発表は見送られます。しかし後日シャーリー・バッシー側の許可なく発売されてしまい、結果的に裁判沙汰にまでなります。
その辺の事情は、英語版ウィキペディアの「Bond Collection」という項にまとめられていますので、Google翻訳で日本語にしたものを引用してみます。

1987年の初めに、バッシーはジェームズボンドのテーマのアルバムを録音することを計画していたと発表しました。 このアルバムは、No.Dr。の25周年を記念して1987年にリリースされる予定でした。彼女は、1987年5月3日にテレビ番組「Live At The Palladium」でプロモーションし、「A View to a Kill」と、 ジェームズボンドメドレーを行いました。

Basseyは、理由がはっきりしないままアルバムをリリースしないことに決めました(レコーディングの品質に満足していなかったと考えられています)。 しかし、5年後のアルバムは、1992年9月20日にICON RecordsのレーベルからThe Bond Collectionとして、1994年1月10日にTRING RecordsからBassey Sings Bondとしてリリースされました。 Basseyは法廷で訴訟を起こし、1995年5月5日、アルバムの今後の製造または販売を阻止するため、Icon Entertainmentに対して永久的な差し止め命令が出された。 既存の売れ残りのコピーはすべて販売を中止され、CDは現在欠品しています。(後略)


という訳で裁判ではシャーリー・バッシーサイドが勝訴して販売差し止め、在庫品の回収まで行われた訳ですが、ではなぜこのCDが存在しているのでしょうか?

1つ注目したいのは、上の引用文を見る限り、差止命令が出されたのは、Icon Entertainmentに対してで、TRING Recordsについては記述がありません。何故そうなったかは不明ですが、TRING Recordsについては、差し止め命令が出なかった、またはもともと訴えられていなかった、という可能性があります。

もう1つは、TRING Recordsが出した、『Bassey Sings Bond』と、今回のCD、『Shirley Bassey Sings Bond』は別物だということです。『Bassey Sings Bond』について、Discogsで検索してみると、出てくるのはこれです。今回のCDとはジャケ写が違いますね。内容については同じものだと思いますが。
今回のCDには、発表年が記載されていないので、いつ頃出されたものかは判らないのですが、遅くとも1996年には出されていたようです。というのは、今回の記事とだいぶん内容がダブっている(マネした訳ではありませんよ。Part 1を書いた後に発見したのです)、『勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)』というサイトの「シャーリー・バッシーの珍品CD」という記事が書かれたのが1996年だからです。
『Bassey Sings Bond』(もう1度おさらいしておくと今回のCDは『Shirley Bassey Sings Bond』ああ、ややこしい)は、上の引用には「1994年1月10日にTRING RecordsからBassey Sings Bondとしてリリースされました。」とあるので、その2つを考えれば、1994年1月11日〜1996年の間に出されたものであることは確かです。
その間最大3年弱、「ほとぼりが冷めた頃に出した」にしては短すぎるような気がします。

ちなみに発売元であるキープ株式会社には商品一覧のPDFが公開されてますが、その中にはこのCDはありませんでした。
また輸入元である蝶理株式会社は、ググるとヒットしますが、どうもCDの輸入などをやっている会社ではないようです。併記されている電話番号も現在はどこも使っていないようです。
ということで、このCDが何時頃どのような経緯で再発されることになったかは今の所不明です。

補足2
Part 1で、
ちなみに、
・『007 サンダーボール作戦』 (1965年)
・『007 慰めの報酬』 (2008年)
でも主題歌候補に上がっていたものの、落選したとのことです。

と書きましたが、その『007 サンダーボール作戦』の落選した幻の主題歌ですが、「Mr. Kiss Kiss Bang Bang」という曲で、驚くべきことにシャーリー・バッシーの他にディオンヌ・ワーウィックも歌っており、二人揃って落選したことになります。なんてもったいない...。まあ、その二人を蹴落として当選したのが、かのトム・ジョーンズですから、仕方のないところですね...。
ちなみにこの「Mr. Kiss Kiss Bang Bang」という曲ですが、007映画の30周年を記念して出された、『The Best Of James Bond 30th Anniversary』という2枚組のCDの2枚目に、シャーリー・バッシー版、ディオンヌ・ワーウィック版ともに収録されています。シャーリー・バッシー版はYouTubeにもありましたので貼っておきます。

削除済みならごめんなさい。

補足3
『007は二度死ぬ』のテーマ曲「You Only Live Twice」は、このCDでも歌われています。結果的にはシャーリー・バッシー側が裁判を起こしてCDの発売差し止めに至る訳ですが、そのまま葬り去るには惜しい、と思ったのでしょうか、バックの演奏は新しい(まともな)ものに差し替え、ヴォーカルのみこのCDに収録されたものを使って、リメイクされています。
収録されているのは、『Get the Party Started』(2007)というアルバムで、このアルバムは、シャーリー・バッシーの過去の曲のセルフ・カヴァー的なものなので、ここで出し直そう、と思ったのかも知れません。
これもYouTubeにありましたので貼っておきます。

削除済みならごめんなさい。

                         了
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私のブログにコメントをいただいたリンクを辿ってお邪魔しました。
まずは、よくぞこのような珍盤について書いた記事に反応してくださいました。こちらにも書かれているとおり、なぜこのアレンジや演奏でパッシーが歌う気になったのか、私にはそれが最大の謎です。
まぁ、偉大な歌手なので、ヴォーカルだけはそれなりに聞けるのが逆にトホホと言いますか…間違いなく珍品ですね。
ところで、訂正を一つ。私の記事が作成されたのは1996年ではなく2016年です。1996年にはようやくインターネットに触った程度でした(笑)。また、2016年に入手したものも中古です。
タイトルに関しては私が古い方を書いてしまったようですが、こだわるほどの事とも思えないし、これ以上深く追う気もないのでそのままにしておきます。
ですが、こうやって掘り下げる方がいらっしゃるのは嬉しいことです。楽しく読ませていただきました!

それから、音楽ブログもSNSに押され気味ですが、こちらのようなブログがある事も嬉しいです。エールを送らせていただきます。
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日々鬱病と未聴CDと戦いながらCD買い物依存症から抜け出せない、そんな奴です。

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